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というのも、主人は昔から大変な倹約家で、駅3つぶんくらいの距離なら、電車やタクシーを使わないで歩くというほどでした。
病院はそれなりに繁盛していたはずなのですが、それでも、そうしていたのですね。
ですから、主人がお金を貸したというのは、生涯でK坂さんが最初で最後だったじゃないかと思いますよ(笑)。
それだけK坂さんのことを高く買っていたじゃないでしょうか。
K坂さんがお見えにならなくなってずいぶん経ったあとの話ですが、昔のことを全然ご存じないK坂さんの会社の営業の方が、飛び込みでいらしたことがあったのです。
今も、何年か前にK坂さんが出された総合カタログはどうしても思い出せないのだが、かなりの額だったことは確かだ。
私か大喜びでお礼を申し上げたことはもちろんだが、「借用書をもらうくらいの人間に貸したりはしないよ。
そんなものは要らないから、お金は全部、持って帰りなさい」とおっしゃってくださったのだった。
独立して間もない時期に、こんな素晴らしい先生と巡り合えたということは、私にとっては、ただの「運命」と呼ぶ以上の何かがあったとしか思えないのである。
これも、やはりご先祖さまが導いてくださった結果であると信じているのも、決して妄想などではないと私は信じている。
そうでなければ、こんなにも自分に都合のよい「偶然」が、続けざまにくるはずはないのではないだろうか。
他人はどう思うか知らないが、私には、どうしてもそうとしか考えられないのである。
その後も先生は私のことを大そうかわいがってくださって、私かお伺いするたびに、診療の手を休めて、お寿司を取ったりして私をもてなしてくださるのである。
それではさすがに申し訳なくて、いつの間にか、私はS野先生のところに行くことをやめてしまったのだった。
というのも、あまりにも親しくなると、お互いに甘えが出てきて、結局は双方のためにならないという考えが私にあるからである。
どういうわけかというと、お客さまのほうでは、これだけ親しいのだから値段を安くしてくれるだろうとか、他より優先的に持ってきてくれるだろうという期待を持たれることになる。
ところが、私たち売るほうが考えるのは、親しいのだから甘えた値段設定でもいいだろうとか、古いものを持っていっても大丈夫だろうといった、お客さまとはまったく逆のことなのである。
うまく行っているうちはいいが、その違いからくる問題が、何かあったときに出てくるものなのだ。
だから、独立して商売を始めた直後から、私は親戚や友人のところへは営業をかけないと決めていたのである。
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